医師・歯科医師における確定申告の注意点 ~青色申告特別控除について~

埼玉県税理士会連合会発行「県連マンスリー」に発表したレポート
埼玉県税理士会連合会発行「県連マンスリーNo335号」2005年6月

Ⅰ.はじめに

医師・歯科医師の確定申告については、一般の申告と比べて注意しなければならない点が多い。これは、クライアントが医師・歯科医師であるという我々税理士からみた精神的な影響も大きいと思われるが、実際に計算する上でも、社会保険診療報酬が5000万円以下である場合の概算経費率の適用の有無の判断。医療用機器等の特別償却やリース機器が多いためリース税額控除の適用。また、事業付随収入の確認や事業以外の収入の確認。そして、自由診療が多い場合の消費税の対応などがある。

また、平成16年の税制改正において、平成17年分の所得税の確定申告より青色申告特別控除額の一部が改正された。そこで、社会保険診療報酬の概算経費率を適用した場合の青色申告特別控除について考えてみた。

Ⅱ.青色申告について

1.青色申告

青色申告は、税務署長の承認を受けて青色の申告書を用いて行う申告である。これは、申告納税制度の定着のため、シャウプ勧告に基づいて導入された制度である。つまり、自分自身の申告は、自分が最もよく理解しているため、収入・支出を記録した帳簿書類を基礎とした正確な申告をし、その帳簿等を備え付けている者には各種の特典を与えることにより申告納税制度を普及させるというものである。青色申告の特典には、(1)更正は推計によって行うことはできない。また更正通知書には理由付記をしなければならない。(2)青色申告特別控除が認められる。(3)青色事業専従者等の規定があるなどの様々な特典がある。

2.青色申告特別控除

青色申告者には、10万円の青色申告控除が認められていたが、平成5年から青色申告特別控除として10万円か55万円(一部45万円適用)の特別控除制度になった。それが平成17年分より10万円か65万円に変更された。これは、青色申告の承認を受けている者で、不動産所得・事業所得・山林所得がある場合には、それらの所得から最高10万円を控除することができる。また、青色申告者で、不動産所得・事業所得を生ずべき事業を営む者がそれらの事業につき帳簿書類を備え付けて、一切の取引を詳細に記録している場合で、申告書に一定の明細書を添付して申告期限までに申告した場合には、これらの所得から最高65万円控除することができる。これは、不動産所得・事業所得は事業が要件であるため、当然に不動産所得で事業的規模に該当しない場合には、適切な帳簿の記録・保存があっても10万円の控除になる。また、申告期限後に申告した場合、他の要件には該当しても10万円の控除になると思われる。

また、各所得から控除できる金額は、それらの所得における総収入金額から必要経費を控除した金額と所得税法に規定されている。

Ⅲ.社会保険診療報酬の特例を適用した場合

医業等の社会保険診療報酬の特例を選択した場合には、必要経費に算入する金額は、所得税法の必要経費の規定にかかわらず、社会保険診療報酬の金額によって計算した金額とすると規定されている。つまり、社会保険診療報酬の概算経費率を適用して特例計算をした場合には、所得税法の必要経費の規定に該当しない。そのため社会保険診療報酬の特例計算を適用した部分に対する所得金額から青色申告特別控除額を控除することはできない。そこで、表のようなものを作成しておくと、特例計算を適用した所得金額から控除することも少ないと思われる。また、国税庁が発表した質疑応答事例で、青色申告特別控除額55万円を社会保険診療収入にかかる所得と自由診療収入にかかる所得に按分して申告した場合に、自由診療収入にかかる所得が55万円を超えていれば更正の請求をすることもできると公表されていましたが、当初の申告を正しく行うためにも表のようなもので計算し、その後の税務署等の確認においても説明できるようにしておくことが必要であると思われる。

(単位:千円)

  収入 必要経費 社保差額 雑収入 差引 青色申
告控除
所得金額
金額 比率
社保 15,000 0.9375 7,500 3,300 0 4,200   4,200
自由 1,000 0.0625 700   100 400 400 0
合計 16,000 1.00 8,200 3,300 100 4,600 400 4,200

Ⅳ.おわりに

自由診療報酬の割合が高い歯科医師などの場合には、自由診療に関する金額が55万円を超えることも多いため、あまり問題になることもないかと思われるが、一般の内科や歯科であっても開業した年分や廃業する年などは注意する必要があると思われる。青色決算書では、社会保険診療報酬と自由診療の合計金額が表示されているので所得金額が65万円を超えている場合には、もう一度上記表により確認して申告書を作成することが必要であると思われる。確定申告の時期はかなり忙しいため、いつもより注意をして後日税務署より指摘を受けないように気をつけたいと思います。

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