非上場株式を譲渡した場合

埼玉県税理士会連合会発行「県連マンスリー」に発表したレポート
埼玉県税理士会連合会発行「県連マンスリーNo313号」2003年4月

Ⅰ.はじめに

資産を譲渡するときに注意しなければならないことのひとつに、譲渡価額をいくらにしたらよいかということがある。第三者との取引であれば売買契約により決定するが、同族関係者では問題点は多い。上場株式のように客観的に評価額がわかるものであればそれほど問題となることもないと思われるが、土地などの不動産やましてや非上場株式の評価額については気がかりな点は多いと思われる。非上場株式の価額は、一般に相続税法の財産評価基本通達における取引相場のない株式として評価方法を定めており、株式の取得者や株式発行法人の規模等の区分に応じ種々の評価方法を規定している。これらの評価方法は、財産評価通達上の評価額であることから、相続税・贈与税における評価方法であるが、実務的には非上場株式の評価方法は税法では他に規定していないため、これらの評価方法を基礎として評価額を算定することが多いと考えられる。ほとんどのみなさんはよく理解されていると思われますが、未熟者の私は、個人が非上場株式を譲渡した場合の価額についてその要点をまとめてみた。

Ⅱ.個人から個人へ譲渡した場合

〇譲渡者
個人が資産を譲渡した場合の譲渡所得の課税については、収入金額は実際の譲渡の対価の金額の合計額である。つまり、どのような価額であってもそれが金銭以外の物又は権利その他経済的利益でなければ譲渡の対価の金額が譲渡所得の収入金額とされる。

〇譲受者
譲受者については譲渡価額をもって取得価額とされるが、譲渡価額とその資産の相続税評価額との差額があれば、相続税法7条の規定によりみなし譲渡として贈与税が課される。 以上のことをまとめると表1のようになる。

表1
評価方法 評価額 譲渡者 譲受者
同族株主以外 同族株主 同族株主以外 同族株主
配当還元方式 50円 課税問題なし 課税問題なし 課税問題なし みなし贈与(450)
類似業比準方式 500円 課税問題
なし
純資産価額方式 750円
併用評価方式 650円

※適用法人 大会社に該当 原則評価は類似業種比準方式
※併用方式 子会社500×50%+800×50% 土地等・上場有価証券は時価評価・法人税控除せず

Ⅲ.個人から法人へ譲渡した場合

〇譲渡者
個人が資産を譲渡した場合は前述した通り、譲渡所得の収入金額は、実際の譲渡の対価の額の合計額であるが、個人が法人に対して著しく低い対価で譲渡した場合には、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得が課税されます。(所法59①二)この場合の著しく低い価額の対価の額については、所法59条1項2号では政令で定める額と規定しており、その施行令169条において、譲渡したときにおける価額の2分の1に満たない金額とすると規定している。したがって、個人が法人に対し時価の2分の1以上の額で譲渡した場合には、実際の譲渡対価を収入金額として譲渡所得を計算することになるが、時価の2分の1未満の価額で譲渡した場合には時価をもって収入金額としなければならない。

ではこの時価とはどのような価額かというと、平成12年12月に新設された所基通59-6に規定されている。これは基本的には、財産評価基本通達の評価方法に準じて算出された価額ではあるが、

  1. 同族株主に該当するかどうかは、譲渡前の保有株式数により判定。
  2. 譲渡した個人が「中心的同族株主」である場合、小会社として評価する。
  3. 発行会社が土地等又は上場有価証券を有しているときは、純資産評価方式の適用時には譲渡時の市場時価により評価した額とする。
  4. 純資産価額方式の適用につき、法人税等相当額を控除しない。   
    により算出した価額をもって時価とすることになる。       
    (※2分の1以上の価額であっても所基通59-3により時価評価もある。)

○譲受者     
資産を譲り受けた法人は、譲渡価額と時価との差額は受贈益とされる。この場合の時価も上記所基通59-6による算定額をもって非上場株式の価額として取り扱われる。
以上の点をまとめると表2のようになる。

表2
評価方法 評価額 譲渡者 譲受者
同族株主以外 同族株主 同族株主以外 同族株主
配当還元方式 50円 課税問題なし みなし譲渡(650) 課税問題なし 受贈益(600)
類似業比準方式 500円 課税問題なし 受贈益(100)
純資産価額方式 750円 賞与等(100) 課税問題
なし
併用評価方式 650円 課税問題なし

※適用法人 大会社に該当 原則評価は類似業種比準方式
※併用方式 子会社500×50%+800×50% 土地等・上場有価証券は時価評価・法人税控除せず

Ⅳ.おわりに

以上述べてきたように、非上場株式の譲渡には多くの問題点があります。またこれら以外でも、平成13年の商法改 正による自己株式の取得によるみなし配当課税や相基通9-2による贈与税が課されることもあり、所得税、法人税、 相続税が複雑に絡み合った規定であり、特に注意しなければなりません。そこで実際に譲渡をする場合には、課税庁に問題とされた場合にも譲渡価額の計算方法を明確に説明できるようにすることが重要なことではないかと思われます。

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